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2008年3月の26件の記事

2008年3月31日 (月)

血糖自己測定の普及

昨3月30日、日経新聞朝刊の『医師の目』と題した連載コラムに、次の内容がありました。

『血糖自己測定をもっと普及させよう』

筆者は、糖尿病学会で知らない方はいない東京都済生会中央病院副院長の渥美義仁先生です。以下、記事からの抜粋です(太字、下線はdragonfly)。

日本では、これまでインスリン使用者にのみ健康保険が適応されてきました。ただ、国際糖尿病連合の治療ガイドラインでは、インスリン治療以外の人にも積極的に活用するのが標準で、国内の遅れは明らかでした。この4月の診療報酬改定でやっと200床未満の医療機関で非インスリン治療患者にも認められましたが、費用のわりに血糖センサーの数が限られるので、使う際には工夫が必要です。

(200床以上の)大きな病院にかかる人がなぜ発展途上国並みの環境に留め置かれたかはわかりません。しかし、必要性をよく理解した人が、主治医のアドバイスのもと、自分の意思と費用でしっかり血糖値を測ると効果的でしょう。

血糖自己測定については、既に欧米先進国をはじめ、アジアの多くの国でも、OTCとして認められており、必要な人は誰でも薬局で買うことができます。

一方、日本では医師の指導のもと、インスリン使用患者だけに限定されており、糖尿病および生活習慣病関係者の間では、ずっと以前から日本の規制緩和の遅れが問題になっていました。

今回の診療報酬改定で、若干の規制緩和が行われましたが、渥美先生のご指摘のように、まだまだ十分ではないようです。欧米のように、血糖コントロールを必要と感じた人が「自分の意思と費用で」血糖自己測定器を購入して使用することができるようにしていくべきでしょう。

国家の医療費削減を長期的に考える場合には、血糖自己測定のような予防医療にこそ、もっと医療費を使うべきだと思います。もし健康保険の適用がコスト的に難しいのであれば、国民のひとりひとりが自分の意思と費用で、健康管理・予防を行えるような仕組みにしていくべきだと考えます。

製薬メーカーのTVコマーシャル

最近、製薬メーカーのテレビコマーシャルをよく見かけるようになりました。タイプとしては、大きく3つに分かれると思います。

1つめは、会社自体の認知度向上、イメージアップを狙ったCMです。

最近の例では、合併して新会社になった第一三共が、俳優の渡哲也を起用したCMが目立っています。いかにもギャラが高そうな渡哲也が登場して、「どこの薬かな?第一三共か」という演技をするだけですが、さすがは大物俳優だけに、存在感があって目を引きますね。新会社の認知度アップだけではなく、合併後の同社社員に愛社精神をもたせ、モチベーションを向上させる施策(経営用語ではPost Merger Integration施策)としても有効なのではないでしょうか。

その他には、テルモやニプロといった医療機器に軸足があったメーカーが、医薬での認知度向上を企図したCMも目立っていると思います。

2つめは、しい領域の医薬品の患者(消費者)への認知度向上(啓蒙)を意図したDirect To Consumer (DTC)のCMです。

DTCは、一般消費者(潜在患者)が「病気なのかどうかわからない」領域において、「そのような悩みがある人は病院で医師に相談してください」と知らせるPull 戦略が目的です。これまで、ED、うつ病、養毛などの例がありました。

最近では、アステラス製薬とサノフィ・アベンティスが共同で、睡眠導入剤のCMを大々的に展開しているのが目立っています。こちらは俳優ではなく、元NHKキャスターの草野満代さんと、順天堂大学病院の河盛隆造教授による「生活習慣病に起因する睡眠障害について」の対談形式の堅い感じのCMです。河盛教授は、糖尿病や内分泌の世界では知らない医師はいない有名な方ですので、このCMは一般消費者向けだけではなく、クリニックなども含む医師向けにインパクトが強いCMだと思います。

3つめは、ジェネリック医薬品のCMです。

この領域は、厚労省が医療費削減のためにジェネリック比率を欧米並みに高めたいという意図と、患者や病院経営者のコスト意識向上とともに、少しずつメジャーになりつつあります。

以上のように、これまで医科向け医薬品企業は、マスメディアによる広報活動(特にテレビコマーシャル)にはあまりエネルギーを注ぐ必要はありませんでしたが、今後はますますその重要性が増していくでしょう。特に各社が、いかに企業の独自性を出すか、いかにCMの費用対効果を向上させるか、優秀な広報スタッフをどのように育成するかといった点で、知恵を絞っていくことになりそうです。

2008年3月28日 (金)

三菱化学生命科学研究所の解散

3月24日付けで、少し残念なニュースリリースがありました。

「株式会社三菱化学生命科学研究所の解散について」

2010年3月末をもって、同社を解散することを決定した。三菱化学生命研は、1971年以来、生物の生命現象を分子レベルで解明するとともに、環境や生命倫理に関する研究を設立当初から手がけた。常に生命科学における最先端の研究を手がけ、100名を超える大学教授を輩出した。

一方、最近では、大学で生命科学の研究も多く行われるようになり、国、民間の同分野の研究所も多数設立されている。そのため、同社は「生命科学の発展への寄与と研究成果を事業化し、その事業を通じて社会に貢献する」という所期の使命を果たしたと判断し、解散を決定した。

三菱化学生命科学研究所は、民間企業がライフサイエンスの基礎研究に投資する先進的な事例だったと思います。「100名を超える大学教授を輩出」と聞くと、同社が日本のライフサイエンスに果たした貢献の大きさを改めて認識します。

日本を代表するライフサイエンス研究所の1つがなくなるのは残念ですが、それぞれの研究者の方々の研究テーマは、別の場所で引き継がれていくのでしょう。

英国の医師教育

最近出版された本です。

『見習いドクター、患者に学ぶ』(集英社新書) 林 大地

日本の大学を中退し、英国ロンドンの医学校で医師を目指した筆者の留学体験記です。

英国人を初め、さまざまな国籍の人たちと切磋琢磨して医師になるための努力をしていく姿が、活き活きと描かれており、読み物として面白かったです。特に、次のエピソードが印象に残りました。

・筆者のDaichiという名前は、英国人には覚えられないし、DaiはDie(死)につながり縁起が悪いので、大学の先生からAlexという英国名をもらったこと。

・日本とは異なり、医学部1年の最初から、GPでの実習があり、患者とのコミュニケーションスキルや診断スキルを学ぶこと。

・初めての採血実習で、静脈血がとりにくい老婦人を担当し、何回かの失敗のあと、患者のあたたかい協力で、無事に血を採れたこと。

・卒業試験では、Objective Structured Clinical Examination (OSCE、客観的臨床能力試験)があり、厳しく臨床現場でのとっさの診断力、判断力が試されること。

全体を通して、英国では「患者中心の医療(Pacient-centered Medicine)」を重視して医学教育が行われていることに、感銘を受けました。

また、この筆者は、素直で読みやすく、エピソードを上手に伝える文章力があるので、次回作にも期待したいです。

厚労省の新薬審査期間の短縮

3月26日の日経新聞朝刊に、『新薬の審査期間短縮へ体制強化』との大きな記事が掲載されました。

厚生労働省は新薬を患者に使えるようになるまでの期間を欧米並みに短くするため、2008年度に審査体制を大幅に強化する。審査員を07年度に比べ、3割多い190人強に増やす。申請前に薬の有効性などをあらかじめ評価し、審査期間を短くする「事前評価制度」の09年度導入に向けた準備も進める。新薬を安全で早く使えるようにして、患者の選択肢を広げるほか、製薬会社の国際的な競争力を高める狙いがある。

「厚労省もようやくここまで審査期間短縮を考慮してくれるようになったか」と、歓迎している医療関係の方、患者会の方、そして医薬・医療機器・診断メーカーの方も多いと思います。

もっとも記事の中で、「欧米では約1年半で承認が取れるのに、日本では約4年かかる」との記述がありましたが、日本での治験の難しさ、保険償還の難しさ、安全性データやリスクマネジメントのハードルの高さなども含めると、実際に患者さんが新しい医薬・医療機器の恩恵をうけるまでには、4年よりもずっと大きな差があるというのが関係者の実感ではないでしょうか。

私自身も以前、ある医療機器の薬事承認で、06年の改正薬事法に伴う諸々のあおりを受けて、承認取得が通常のプロセスより1年以上、遅くなった経験があります。

今回の審査体制強化は、初めの一歩としては歓迎ですが、個人的には、次のような問題意識があります。(私の理解不足などで、誤解あれば、ご指摘頂ければ幸いです。)

・医薬品医療機器総合機構の審査担当者を08年度で3割(50名近く)増員するとのことだが、審査の能力・スキルがある人材を一度にそんなに大勢、確保できるのか?

・医薬の審査もたいへんだが、医療機器や診断薬・機器は、それ以上に製品ごとに特性(形状、臨床的意味合い、使用場面、ITとの関係など)が異なるため、医療全般についての知識と、熟練した審査能力が必要となる。大丈夫だろうか?

・日経記事にあるように、目的の1つが「日本の製薬会社の国際競争力強化」とあるが、医薬・医療機器は圧倒的に外資系の開発力が強いことは自明なので(ひとりの日本国民としては残念ですし、国内メーカーには頑張ってほしいですが)、国内メーカーと同様に、公平に外資系メーカーの製品を審査してもらいたい。メーカーが国内か外資かは患者にとって、全く関係ない。新しい医薬・医療機器・診断薬が日本で使えるようになることが患者にとって重要だという基本認識に基づいて審査していただきたい。

いずれにしても、日本の患者さん、医療従事者にとって、良い方向に進むことを期待しています。

2008年3月23日 (日)

『医学の歴史』

1964年(昭和39年)初版で、2005年で46版を重ねる超ロングセラーです。

『医学の歴史』(中公新書) 小川鼎三

古代(ギリシャ・中国)、中世(ヨーロッパ、中国、日本)、近世(ヨーロッパ、日本)の医学の進歩、すなわち、「人類4000年の病気との戦いの歴史」が簡単に一望できます。医療に関わる者の教養書として、お勧めです。

この本に出てくる「ヒポクラテス(西洋医学の祖)」「杉田玄白の解体新書」「シーボルトの長崎の塾」「人類の天然痘との戦い」「近代の麻酔の進歩」「パスツールやコッホの細菌学への貢献」「梅毒の歴史」「インスリンの発見」などを知っていると、ドクターとの雑談で何らかの役に立つかもしれません。

多くの医師は、医学部1年目にこのような「医学の歴史」を学んでいるはずですし、それぞれの専門領域の先達の業績についての思い入れもあると思います。

また、特に役に立たなくても、これからもずっと続いていくであろう「人類のQOLを高めるための医学(科学)の進歩」に、ヘルスケア関連企業に働くことで、ほんの少しでも関われることを再認識し、改めてうれしく感じる方も多いと思います。

2008年3月22日 (土)

石垣島のサンゴ礁

昨年末、初めて沖縄の石垣島に行きました。

写真は、美しいサンゴ礁で有名な川平湾の風景です。

寒い季節だったのでグラスボートに乗り、船の上からガラス越しにサンゴ礁を見ました。それでも、美しいサンゴや魚たちがたくさん見えました。

石垣島出身のBEGINの歌『島人ぬ宝』に、下記の一節があります。

僕が生まれたこの島の海を 僕はどれくらい知ってるんだろう

汚れてくサンゴも減っていく魚もどうしたらいいのかわからない

この美しい海が、ずっとこのままでありますように。

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続・糖尿病小児キャンプに参加して

前項が長くなったので、別項目にします。

子供の糖尿病患者と接して、もう1つ、社会全体として考えるべきだと感じたのが、「小児糖尿病(1型糖尿病)の認知度の向上」です。

糖尿病というと、高カロリーのものを食べすぎて運動不足の場合に起こる「生活習慣病=ぜいたく病」だと理解している人が、一般的には多いのが実態です。

そのため、子供が糖尿病になったというと「おいしいものを食べすぎたの?」と、学校の先生や近所のおばさんに聞かれて、子供たちはもちろん、その親も、少なからず傷つくことがよくあるそうです。

1型糖尿病患者は、日本の糖尿病患者740万人のうち、わずか数%(30万人程度)と言われているマイノリティです。発症メカニズムはまだ明らかになっていない部分もあるようですが、生活習慣病ではありません。少なくとも、この違いを多くの人が理解していく必要があります。

毎日、学校で給食の後、トイレでこっそりとインスリンを注射しないといけない小さな子供たちが、大人の無知からくる何気ない言葉で傷つけられるのは、かわいそうです。小児糖尿病の患者の会などが、啓蒙活動をされていますが、まだまだ認知度・理解度とも不十分で、努力を継続する必要があるようです。

糖尿病小児キャンプに参加して

以前、1型糖尿病の子供たちのための「小児サマーキャンプ」に参加したときの感想を書きます。

「小児サマーキャンプ」というのは、不幸にして糖尿病を発症してしまった子供たちのために、糖尿病患者会や病院が主催して行うセミナーです。郊外の公的宿泊施設に2-3泊で行うものが多いようです。

私が参加したキャンプは、関東地方の小児糖尿病患者の会主催で、ある大学病院が協力して開催されていました。6歳から17歳までの23名の子供たちのために、医師、看護士、患者の親、学生(医師、看護士の卵)、製薬スタッフ(インスリンおよび自己血糖測定器メーカー)が延べ50名以上参加してサポートしていました。患者の親も、医療従事者も、製薬メーカーも、手弁当のボランティアです。

セミナーの内容は、糖尿病についての知識、栄養管理の知識、インスリン注射の打ち方、自己血糖測定器の使い方、運動や学校生活の留意事項といったお勉強の他、子供たちが仲間をつくるためのレクリエーション(スポーツ、ゲーム、花火など)も用意されていました。

この小児サマーキャンプでは、医師、看護士、患者の家族、製薬メーカースタッフが「より良い医療を患者に提供するパートナー」として、チーム一丸となって活き活きと働いていました。

そこで、ある中学2年の女の子が、製薬メーカースタッフに「改めてお願いがあるんですけど」と言って、話してくれたことが印象に残っています。彼女は「ずっと古いタイプの自己血糖測定器を使っているが、最近出た他の機種より、血液量が多くて穿刺具も痛いので、自分の通っている病院にも、早く新しい機種を入れて欲しい」とメーカースタッフに頼んでいました。

メーカースタッフとしては、とてもうれしくありがたい話ですが、メーカーの一存ではなかなか彼女の希望に答えられないのが、医療の現実だと思います。どの病院も、最近は新しい医療機器の採用には慎重なことが多いです。特に自己血糖測定器のような、治療に直接つかう訳ではなく、既にある程度普及している機器の新機種の採用には抵抗のある病院が多いようです。

つまり、新機種を採用すると、新しい機器の使い方を患者に教える手間(主に糖尿病療養指導の看護士さんの時間をとられる)がたいへんになったり、在庫機種が増加することで管理コストが上昇したりするので、採用自体を避ける傾向にあります。

そこでは、患者の利益(求めるもの)=痛みの少なさ という、最も大切な点が軽視されています。

病院がコスト管理を厳しくしないと経営的に厳しいという現実は、よく理解しています。この血糖測定器の件は、新しい医療機器が日本で普及しない一つの例です。これに限らず、病院のコストを抑制しながら、患者の利益を追求するために新しい医薬・医療機器を導入するための方策を、国家の医療政策として考えないといけないと思います。

2008年3月20日 (木)

『売り上げが10倍伸びる時間管理術』

時間管理(タイム・マネジメント)=生産性向上は、あらゆるビジネスパーソンの永遠の課題です。

『売り上げが10倍伸びる時間管理術』(ディスカヴァー社) デーブ・カール

この本は、オーバーなタイトルにつられて、内容にあまり期待せずに買ったのですが、意外に良かったのでお勧めします。

米国の営業マン向けの本ですが、国・業界・時代を問わず、営業パーソンの「時間管理(タイムマネジメント)」についての悩みには共通部分が多いためでしょう。売上10倍にはならなくても、日本の多くの営業パーソンの生産性向上の参考になりそうです。

この本の各章のタイトルは、いずれも私が大切だと思うことで、皆さんも参考になる点が多いと思います。

第1章    まず、考え方を変えよう

第2章    計画と準備に時間をかけよう

第3章    走り出す前に考えよう

第4章    利益につながる顧客を優先しよう

第5章    1日を自分でコントロールしよう

第6章    ムダをなくそう

第7章    システマティックに仕事をしよう

第8章    仕事を人に任せよう(人に頼めるような仕組みをつくろう)

日本人ホワイトカラーの生産性は、先進諸国で最低レベルと言われて久しいです。

ひとりひとりがこのような本をヒントして、仕事の効率を上げていきたいものです。

『はじめてのリーダーシップ』

今回はリーダーシップの本の紹介です。

『はじめてのリーダーシップ』(中経出版) 山口真一

リーダーシップを扱った本はたくさんありますが、この本は数ある類書の中で、手軽に読める良書の1つです。特に次の点が参考になります。

  • p3 若手リーダーのための6つのキーワード(率先垂範、指導・育成、問題解決、目標達成、全力投球、迅速な対応)

  • p22 若手社員がリーダーシップを磨く際の10の心得

  • p60 「制約条件」の中でベストを尽くそう

  • p74 プラス思考と有言実行

  • p127 問題解決のプロセス

最近、初めて部下を持つようになった方や、近い将来、そうなりたい方は、一度手にとってみてはいかがでしょうか。

『仕事の報酬とは何か』

以前の上司に頂き、たいへん印象深かった本をご紹介します。

『仕事の報酬とは何か』(PHP研究所) 田坂広志

・平易な表現ですが、「自分は何のために働くのか」を深く考えさせてくれる良書です。

・「一生懸命に仕事をすること」の最大の報酬は、「自分自身が成長すること」だと説いています。

この本にあるように、ひとりひとりの社員が、「自分および部下が成長するために」高い目標をかかげ、それに向かってチャレンジし続けている状況が、「良い職場」なのでしょう。

人生の転機や仕事に悩んだときに、繰り返しめくってみたくなる本です。

小学校の英語教育を考える

少し前に、あるNPO主催(文部科学省後援)の『小学校からの英語教育を考えるシンポジウム』というイベントに、パネリストとして参加したことがあります。

その時の経験と感想を書きたいと思います。

韓国、中国などのアジア各国が小学生からの英語教育を強化する流れを見て、日本でも3年前から小学生への英語教育が始まりました。しかし、まだ文部科学省や教育関係者の中にも「英語教育反対派」が多く、議論がまとまっていない状況です。そこで「小学生にどのような英語教育が必要か」という公開討論が、全国各地で行われています。

私の役割は「民間企業で日常的に英語を使用し、苦労している立場」で教育関係者に対してコメントしてほしいとのことでした。約2時間の公開討論のパネリスト4名の1人として、小学生の英語教育ではTVによく出るような著名な方々と席を並べ、僭越ながら、次のような意見を述べさせていただきました。聴衆の多くは、小中学校の先生と教育関係者でした。

  • 世界の共通語が英語になっていく中で、日本は英語ができないという理由だけで、国際ビジネス社会で損をしている。このままでは国益を損ねるし、世界から孤立してしまう。

  • 外資系企業はもちろんのこと、日本企業でも英語の重要性が年々増している。ソニー、キャノン、武田薬品、三菱化学といったグローバルに活躍する大手企業の社長は、海外ビジネス経験者で英語が堪能な方が多くなっている。
  • 英語教育とともに、これからの日本人には、①論理構成力(ロジカルに物事を考え、それを外国人に理解されるようにロジカルに伝える) ②健全な自己主張力(外国人に対して、言うべきことはきちんと主張する) ③異文化受容力(異なる文化を、あるがままに受け入れる)、が求められる。

このような意見は、民間企業では常識ですが、教育関係者は実際の国際ビジネスを知らない方が多いため、新鮮だったようです。主催者からも、私が日本の化学企業や外資系ヘルスケア企業で、実際に英語で苦労した経験や、経営コンサルとして多くの企業のグローバル化をお手伝いした経験からの実例が、たいへん参考になったと好評でした。

少しでも自分の経験がお役に立ててうれしく感じるとともに、日本の教育関係者は、もっとグローバルビジネスの実態を知る必要があると思いました。

2008年3月19日 (水)

『ランチェスター戦略 弱者逆転の法則』

営業戦略の本の紹介です。

『ランチェスター戦略 弱者逆転の法則』(日本実業出版社) 福永雅文

ランチェスター戦略は、営業戦略の古典の1つです。類書は多くありますが、この本は「市場シェア弱者が、強者を逆転するにはどうしたらよいか」という点に絞っている点が面白いです。

  • 「ビジネスの基本は、お客様を通じて、敵(競合)に勝つこと。戦い以外の何物でもない。」「戦いである以上、敵(競合)を知り、敵に勝たなければならない。」  

営業パーソンは、目の前のお客様への対応に追われて、「ビジネスは競合との戦い」ということを忘れがちになります。担当営業が、そのエリアでの競合をよく分析し、競合の営業パーソンに絶対に負けないつもりで戦うことが必要です。

  • 「弱者逆転の法則は、局所優勢主義。戦うべき場所を決めて、そこに集中する。」

ターゲット顧客を絞り込み、そこで必ず勝つ。他の潜在顧客は捨てる勇気をもつ。チームでの集中攻撃も有効。

ある市場で3番手以下で、トップ2社が強くて苦労しているようなビジネスに関わっている方にお勧めです。

2008年3月18日 (火)

日本の医療への不安

都内に数年前に「がん専門クリニック」を開業したがん専門医に聞いた話です。

開業前には、場所(都内のオシャレな一等地)と高級感から見て、都心に勤める外国人(主に会社から東京駐在員として派遣されているエグゼクティブ層)とその家族が、患者の50%程度になることを期待していたそうです。(そのため、英語のパンフレットや、英語が話せるスタッフも充実させたとのこと。)

ところが開業から数年経っても、外国人比率は、当初の期待に大きく届かない(約20%)そうです。わかってきたのは、日本に駐在している外国人は、がんのような難しい病気の可能性があると診断されたとたんに、(特に欧米人の場合)それぞれの母国に帰国してしまうことが圧倒的に多いということでした。

もちろん、言葉やアフターケアの問題もあるかと思いますが、根本的な問題は、エグゼクティブ外国人たちは、「日本の医療レベルを信頼していない」ということだそうです。

日本では最先端の医薬や医療機器の認可がとれていないことが多く、欧米と比べて10年以上遅れた医療しか受けられないというのが、外国人エグゼクティブの間では常識になっているためだそうです。

日本の医療の課題については、このブログで、折に触れて書いていこうと思います。

2008年3月16日 (日)

蝶の道プロジェクト

今日は井の頭公園を散歩した。一気に春めいて暖かくなったので、とても多くの人が散策に来ていて、平和な光景だった。

往復の電車と公園での休憩中に、一昨日、本屋でたまたま見つけた本を、一気に読んだ。

『蝶の道』 (ソニー・マガジンズ新書) 南孝彦

東京都品川区で、ジャコウアゲハをはじめとする12種類の蝶の食草を植える活動「蝶の道プロジェクト」が始まったとのこと。

虫メガネ研究所という自然愛護WEBサイトのメンバーの方々の発案と働きかけで、品川区の公的機関(小中学校、児童センター、清掃工場など)が協力して、区の予算がついたらしい。

都会でこのような試みがなされるのは初めて聞くし、とても珍しい。ビオトープを維持・管理するのは、とても手間と時間がかかってたいへんだと推測するが、是非、継続して成功させてほしい。

私が参加している千葉県でホタルを放すNGOも、最近は家を引っ越して遠くなったので足が遠のいてしまった。

6月頃になったら、実際に品川区のこのエリアに行ってみたい。

2008年3月15日 (土)

温暖化ガスと化学工業

本日の日経新聞1面に「温暖化ガスの排出上位は鉄鋼・化学」という見出しの記事がありました。

日本の温暖化ガスの業界別排出量(CO換算)において、鉄鋼業が14.6%で圧倒的トップ、化学工業が6.9%で2位でした。

企業別ランキングでは、上位には鉄鋼、金属、セメント、製紙企業が多いですが、化学企業は、9位宇部興産、11位東ソー、12位三菱化学、13位出光興産、14位トクヤマ、20位旭化成ケミカルズ、23位電気化学工業、25位昭和電工、30位住友化学、31位三井化学などがリストに載っています。

算出の方法などはよくわかりませんが、ソーダ・塩ビ・電解のプラントを保有する会社が、相対的に上位に来ているようです。

化学工業が他の産業と比べて温暖化ガスを排出するのは、その性質上、仕方がないことです。大きなチャレンジには違いありませんが、日本の化学企業には、少しでも排出量を減らしていくテクノロジー、システムを開発して、「環境に優しい化学産業」としても世界をリードして頂きたいと期待しています。

2008年3月14日 (金)

『売れ続ける会社の営業法則』

営業関係の本の紹介です。

『1000人のトップセールスに学ぶ、売れ続ける会社の営業法則』(ディスカバー社)横田雅俊

先日、ディスカバー社の干場弓子社長から、勝間和代さんの「新インディ」が買えない件についてご丁寧なメールを頂いて感激したので、しばらくの間、ディスカバー社の本を何冊か紹介していこうと思います。ディスカバー社は、新しい視点で(決して著名とは言えない著者の)本を発掘して、ビジネスパーソンの気持ちを捉える上手なマーケティング手法で成功していると思います。

さてこの本では、さまざまな業界のトップ営業マンに共通する仕事の進め方、成長している会社に共通する営業活動・人材育成について、アンケートをベースに考察しています。営業活動にかかわる方にとって、次のような点が参考になります。

・「売れない会社」は人を育てず、「売れ続ける会社」は人を育ててチームで売る(人材育成に時間と金をかける)。

・トップセールスに共通する強みは、時間効率の良さ(アポのムダの少なさ、顧客の見極め、会議の有効活用など)。

・トップセールスの15のコンピテンシー: スピード、準備、行動力、話し方、客観的視点、清潔感、洞察力、質問力、楽観性、数字への責任感、情報力、自信、説得力、クロージング、自己管理力。

・組織として営業力を向上させるためには、マーケティング(組織で集客する仕組み)の強化、組織での見込み客フォロー、情報の共有化が大切。

このように列挙してしまうと、どれも当たり前のようなことですが、営業活動の基本を見つめ直す意味で、良い本だと思います。

2008年3月13日 (木)

新インディが買えない

勝間和代さんの新刊「新インディ」が、会社や家の近くのどこの本屋にもおいていないので、買えません。アマゾンも3週間待ちとのこと。

大きな書店ならあるのかもしれないですが。おそらく出版社の予想を大きく上回る売れ行きなので、増刷しているところなのでしょう。気長に待つことにします。

2008年3月12日 (水)

『日本の医療が危ない』

本日は、医療関係の本の紹介です。

『日本の医療が危ない』(ちくま新書)川渕孝一

現在の日本の医療問題を網羅的にカバーした本として、非常に読みやすく、入門書としてお勧めです。

川渕先生は、東京医科歯科大学大学院教授で、医療経済の第一人者です。

以前、私が勤務していた会社で社内講演会に招待した際、お会いして、直接お話しを伺い、感銘を受けました。

・「第1部 今なぜ医療改革が急務なのか」では、日本の医療の抱える課題が簡潔にまとめられています。

・「第2部 よい医療はこうして実現できる」では、課題解決の方向性を示されています。

自己負担(アウト・オブ・ポケットマネー)の増加、混合診療の拡大、予防医療へのインセンティブ導入などを主張しておられ、この方向は私もかなり同意する考えです。このあたりは、このブログで折に触れて、書いていきたいと思います。

2008年3月11日 (火)

化学企業の合併・分離

最近、ある機能性材料の市場を調べていたら、登場する企業(特にグローバル企業)の名前をほとんど知らないことに、改めて気づいた。

各社のホームページの歴史欄をよく読むと、ほとんどの場合、なじみのあるグローバル化学企業がオリジンであることが多いのだが、この15年くらいの企業合併、事業分離の流れの中で、多くの企業名が変わってしまったため、知らない社名が多いのである。

振り返れば、15年前の1993年頃の世界化学企業のトップ10にあった、ドイツのヘキスト、フランスのローヌプーラン、英国のICI、米国のモンサントなどは、大きく変容してしまった。

医薬業界の再編が引き金になった例が多いのではあるが、機能性材料やスペシャリティケミカルにおいても、事業毎に再編が起こったため、農薬・塗料・機能性樹脂・エンプラ・医薬中間体などの専業の会社が数多く生まれてきている

一方、日本の化学企業は、そこまで「事業ごとの専業化」は進んでいない。今後、グローバル競争がますます激しくなる状況において、日本の化学企業の専業化は、どこまで進むのであろうか。

2008年3月 9日 (日)

ブログの活用

今日からこのブログのタイトルを『ヘルスケア・化学企業の未来創造館』としました。

最近、「時の人」である勝間和代さん(経済評論家)の本や記事を読むことが多く、彼女の著書から「ブログの活用」について刺激を受けました。

3月1日の最初の記事で書いたように、これまでの化学会社・ヘルスケア会社・コンサルティングでの経験を、できるだけ多くの方に「Give」していきたいと思います。勝間さんの表現で言うと、「Give×Give×Give×Give×Give(Giveの5乗)」だそうです。

確かに、日々の学びや気づきをブログで表現することで、自分のアウトプット力を高めることができ、それが新たな仕事に活かせたり、人的交流につながったりするのだと思います。マイペースで継続していこうと思います。

2008年3月 6日 (木)

パキスタンでNGO職員殺害

しばらく前から、プランジャパン(旧フォスタープラン)にささやかながら参加しています。

2名分の支援をさせて頂いていて、1人はホンジュラスの男の子、もう1人はパキスタンの女の子です。

ところが、つい先日の2月末に、このNGOのパキスタンオフィスで、職員3名とボランティア1名が殺害されるという悲しい事件がありました。日本の新聞に掲載されたのかどうかわかりませんが、パキスタンは昨年末のブット元首相暗殺以降、治安が悪化しているようです。

プランジャパンから、パキスタンでの活動をしばらく中断するとの連絡があり、この事件を知りました。とても残念なことです。

先日その女の子に、短い手紙と私の家族の写真と折り紙を送ったのですが、いつになったら彼女の手元に届くのでしょうか。パキスタンの治安が良くなることを祈りたいと思います。

2008年3月 3日 (月)

化学企業のR&D

日本の化学企業のR&Dの流れについての考察です。

第一世代(1990年代初頭まで):

「中央研究所」や「総合研究所」で中長期的かつ基礎的な研究開発を行うのが中心。

新しい触媒や、新しい機能性材料、バイオや超伝導といった新しいテクノロジーを追求するのが、研究者のミッションであり、生きがいであった。

しかし、リソース(研究費、人数)を投入した割には、新規ビジネスの創出にはあまりつながらなかったという反省が多い。

第二世代(2000年頃まで):

バブル崩壊の結果、各社が研究予算を絞り、「研究開発の効率化」を追求した。

各社とも、自社で行うテーマを絞り込み、ビジネスとして出口が見える研究開発に集中した。R&Dのアウトソーシングや外部機関との連携を進めた例も多かった。

第三世代(2001年以降):

会社の規模や事業ポートフォリオにより異なるが、持株会社やグループ会社経営が進んだ結果、「事業部門の分社化」や「事業部門への権限委譲」を進めた例が多い。

その結果、最近の議論としては、研究開発を短期的なテーマに絞りすぎてしまったという反省が聞かれる。

また、各事業部やカンパニーに権限委譲をしすぎた結果、グループ横断的な研究開発がやれていないという声も聞かれる。

化学企業は、ここ数年のアジアを中心とする好景気に牽引され、好調な決算の会社が多いが、このような時期こそ、長期的な視点でR&Dを考え直す必要があるのだろう。

2008年3月 2日 (日)

日本のヘルスケア・化学企業

日本のヘルスケア(医薬・医療機器・診断など)や化学の会社は、グローバル競争において、自動車やエレクトロニクスといった他の製造業と比べると、相対的に弱い立場にあります。

その理由としては、以下の3点が考えられます。

1.歴史的にスタートが遅かった

近代の医学・化学の技術のルーツの多くは、18-19世紀前半の欧州で生まれ、そこから米国に派生しました。欧州には19世紀に設立されて、今もグローバルに活躍している企業が数多くあります。日本は明治以降、欧米の先端医学・化学技術を導入して始まった企業が多いですが、未だに多くの技術領域で追いついたとは言えないようです。

2.長年の規制産業である

医薬・医療機器業界は、皆保険制度のもとで、比較的高い診療保険点数(薬価)がついて守られてきました。化学業界は、石油化学プラントが多額の投資を伴うこともあり、国家政策として旧通産省の指導下で、護送船団方式で守られてきました。そのため、グローバルでの競争力が弱くなってしまいました。

3.医療現場での臨床研究がしにくい

特にヘルスケア(医薬・医療機器など)では、先端医療を臨床現場で実際に使ってみることが、技術の進歩に不可欠ですが、日本では臨床治験が十分にできない(医師がチャレンジしにくい、仮にリスクを取ってもメリットが見えにくい)という制約条件があり、欧米に遅れをとっています。

ネガティブな面ばかりを挙げてしまいましたが、もちろん、日本発のすぐれた医薬・医療機器もたくさんありますし、化学でも、自動車やエレクトロニクス向けの機能材料においては日本は健闘しています。

グローバル競争で苦戦している日本のヘルスケア・化学企業を応援していきたいというのが、私の願いで、少しでもこのブログが参考になればと思っています。

2008年3月 1日 (土)

このブログについて

このブログの筆者dragonflyです。

日本の大手化学企業と外資系ヘルスケア企業に計15年勤務した経験と、約5年の経営コンサルティングの経験があります。

このブログでは、主にヘルスケア・化学企業の経営企画・営業・マーケティング・R&Dの方を対象に、日ごろ考えていることを書きつづっていこうと思います。

内容は、「お勧めの本の紹介」「日本のヘルスケア企業・化学企業について」「経営コンサルタントの仕事」「外資系企業で働くこと」「海外での経験」「ビジネスの英語」などになると思います。

では、これからよろしくお願いします。

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