『医療崩壊 医師の主張』
日本医師会会長の唐澤氏の最新刊(3月30日発行)です。
『医療崩壊 医師の主張』(毎日新聞社) 唐澤祥人
日本医師会の主張としてこれまでにいろいろなところで発表された意見を、唐澤会長が個人的に総括されたものです。タイトルは、「医師の主張」というより、「開業医がマジョリティを占める、日本医師会の主張」という方が適切だと思いました。
いずれにしても、日本国の医療のあるべき将来像を考える上で、「日本医師会が何を主張しているか」を理解することは避けて通れないところなので、一読の価値はあります。(当然、立場や考え方によって、賛否の議論が百出するところではありますが。)
以下に私の感想を述べますが、私の立場は、ヘルスケア企業と経営コンサルタントの経験から、「医薬・医療機器・診断薬のサプライヤーの視点、および、一人の日本国民としての視点」となります。
最初に、日本医師会の主張について、私が「その通りだ」「ある程度同意する」と感じた点を挙げます。
- 多くの医療従事者は、与えられた条件、限られたリソース(要員、費用、時間)の中で、献身的に仕事をしている。
- 近年、医療に対する安全管理リスクや訴訟リスクが増大しすぎるあまり、医師が新しい医療に対し慎重になりすぎたり、委縮してしまう面がある。
- この点については、日本のマスメディアが医療に対する勉強不足の上、感情的に、病院や医師を一方的に悪者にしすぎる良くない傾向が一因である。
- 日本の対GDP比総医療費は8.0%(2003年)で、米国15.2%、ドイツ10.8%、フランス10.4%などと比べて低すぎる。もっと総医療費を増額すべきである。
- これからは地域のかかりつけ医が重要。
一方、私が「この点は同意しない」「これでは多くの国民の理解は得られないのではないか」と感じた点は、以下の通りです。
- 医師の仕事は近年著しく多忙になっているということを繰り返し主張されているが、医療に限らず、例えば20年前と比べて、ラクになっているという仕事は、今の日本にはほとんど存在しない。
→ なぜなら、日本経済の成長が鈍化し、社会が成熟してくると、あらゆる業界で競争が激化するため。グローバル競争がほとんど無く、IT化の影響もまだ少ない医療業界は、その点ではマシな方です。医療においては、まだまだ業務プロセスの効率化、低コスト化、患者サービスの向上などに努力する余地があると思います。
- 医師の給与は安すぎるという主張をされているが、日本の医師の平均的な給与レベルは高いはずです。
→ 米国でもドイツでも、競争を勝ち抜いた優秀な医師は高い給与を得られますが、平均的な勤務医・開業医は日本より低いはずです。例えば、私がよく知っている外資系ヘルスケア企業のドイツでは、多くのメディカルドクターが勤務しています。彼らが病院ではなくメーカー企業に勤務する理由の1つは、病院の給与はヘルスケアメーカーより安いからです。
ある37歳位のドイツ人内科医と話したところ、「彼が勤めていた公立病院だと年収800万円で夜勤や休日出勤もあるが、メーカーの医療学術担当では年収900万円で平日勤務のみなので、メーカーの方がよい」との話でした。
- 医師は国の財政再建の被害者であるといった主張で一貫していますが、もう少し、医師の側も長期的な視野に立った改善努力をすべきだと思います。
→ この本に書かれていない点として、私が織り込んでほしいと思っているのは、例えば「医師免許の更新制度の導入」「最新技術への定期的なアクセスの義務化」「セカンドオピニオンの推進」「チーム医療制の導入」「人材のグローバルな流動化」「先進的な医療や安全管理についてのマスメディアへの説明の強化」などがあります。これらについては、このブログの中で、適宜、触れていきたいと思います。
いずれにしても、最初に触れたように、「多くの医師・医療従事者は一生懸命、頑張っている」「総医療費を増額しないと、努力しようにもできない」ことは理解した上での、私のコメントです。誤解なきよう、お願いします。
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