カテゴリー「1. ヘルスケア・化学企業」の7件の記事

2008年3月31日 (月)

血糖自己測定の普及

昨3月30日、日経新聞朝刊の『医師の目』と題した連載コラムに、次の内容がありました。

『血糖自己測定をもっと普及させよう』

筆者は、糖尿病学会で知らない方はいない東京都済生会中央病院副院長の渥美義仁先生です。以下、記事からの抜粋です(太字、下線はdragonfly)。

日本では、これまでインスリン使用者にのみ健康保険が適応されてきました。ただ、国際糖尿病連合の治療ガイドラインでは、インスリン治療以外の人にも積極的に活用するのが標準で、国内の遅れは明らかでした。この4月の診療報酬改定でやっと200床未満の医療機関で非インスリン治療患者にも認められましたが、費用のわりに血糖センサーの数が限られるので、使う際には工夫が必要です。

(200床以上の)大きな病院にかかる人がなぜ発展途上国並みの環境に留め置かれたかはわかりません。しかし、必要性をよく理解した人が、主治医のアドバイスのもと、自分の意思と費用でしっかり血糖値を測ると効果的でしょう。

血糖自己測定については、既に欧米先進国をはじめ、アジアの多くの国でも、OTCとして認められており、必要な人は誰でも薬局で買うことができます。

一方、日本では医師の指導のもと、インスリン使用患者だけに限定されており、糖尿病および生活習慣病関係者の間では、ずっと以前から日本の規制緩和の遅れが問題になっていました。

今回の診療報酬改定で、若干の規制緩和が行われましたが、渥美先生のご指摘のように、まだまだ十分ではないようです。欧米のように、血糖コントロールを必要と感じた人が「自分の意思と費用で」血糖自己測定器を購入して使用することができるようにしていくべきでしょう。

国家の医療費削減を長期的に考える場合には、血糖自己測定のような予防医療にこそ、もっと医療費を使うべきだと思います。もし健康保険の適用がコスト的に難しいのであれば、国民のひとりひとりが自分の意思と費用で、健康管理・予防を行えるような仕組みにしていくべきだと考えます。

製薬メーカーのTVコマーシャル

最近、製薬メーカーのテレビコマーシャルをよく見かけるようになりました。タイプとしては、大きく3つに分かれると思います。

1つめは、会社自体の認知度向上、イメージアップを狙ったCMです。

最近の例では、合併して新会社になった第一三共が、俳優の渡哲也を起用したCMが目立っています。いかにもギャラが高そうな渡哲也が登場して、「どこの薬かな?第一三共か」という演技をするだけですが、さすがは大物俳優だけに、存在感があって目を引きますね。新会社の認知度アップだけではなく、合併後の同社社員に愛社精神をもたせ、モチベーションを向上させる施策(経営用語ではPost Merger Integration施策)としても有効なのではないでしょうか。

その他には、テルモやニプロといった医療機器に軸足があったメーカーが、医薬での認知度向上を企図したCMも目立っていると思います。

2つめは、しい領域の医薬品の患者(消費者)への認知度向上(啓蒙)を意図したDirect To Consumer (DTC)のCMです。

DTCは、一般消費者(潜在患者)が「病気なのかどうかわからない」領域において、「そのような悩みがある人は病院で医師に相談してください」と知らせるPull 戦略が目的です。これまで、ED、うつ病、養毛などの例がありました。

最近では、アステラス製薬とサノフィ・アベンティスが共同で、睡眠導入剤のCMを大々的に展開しているのが目立っています。こちらは俳優ではなく、元NHKキャスターの草野満代さんと、順天堂大学病院の河盛隆造教授による「生活習慣病に起因する睡眠障害について」の対談形式の堅い感じのCMです。河盛教授は、糖尿病や内分泌の世界では知らない医師はいない有名な方ですので、このCMは一般消費者向けだけではなく、クリニックなども含む医師向けにインパクトが強いCMだと思います。

3つめは、ジェネリック医薬品のCMです。

この領域は、厚労省が医療費削減のためにジェネリック比率を欧米並みに高めたいという意図と、患者や病院経営者のコスト意識向上とともに、少しずつメジャーになりつつあります。

以上のように、これまで医科向け医薬品企業は、マスメディアによる広報活動(特にテレビコマーシャル)にはあまりエネルギーを注ぐ必要はありませんでしたが、今後はますますその重要性が増していくでしょう。特に各社が、いかに企業の独自性を出すか、いかにCMの費用対効果を向上させるか、優秀な広報スタッフをどのように育成するかといった点で、知恵を絞っていくことになりそうです。

2008年3月28日 (金)

三菱化学生命科学研究所の解散

3月24日付けで、少し残念なニュースリリースがありました。

「株式会社三菱化学生命科学研究所の解散について」

2010年3月末をもって、同社を解散することを決定した。三菱化学生命研は、1971年以来、生物の生命現象を分子レベルで解明するとともに、環境や生命倫理に関する研究を設立当初から手がけた。常に生命科学における最先端の研究を手がけ、100名を超える大学教授を輩出した。

一方、最近では、大学で生命科学の研究も多く行われるようになり、国、民間の同分野の研究所も多数設立されている。そのため、同社は「生命科学の発展への寄与と研究成果を事業化し、その事業を通じて社会に貢献する」という所期の使命を果たしたと判断し、解散を決定した。

三菱化学生命科学研究所は、民間企業がライフサイエンスの基礎研究に投資する先進的な事例だったと思います。「100名を超える大学教授を輩出」と聞くと、同社が日本のライフサイエンスに果たした貢献の大きさを改めて認識します。

日本を代表するライフサイエンス研究所の1つがなくなるのは残念ですが、それぞれの研究者の方々の研究テーマは、別の場所で引き継がれていくのでしょう。

2008年3月15日 (土)

温暖化ガスと化学工業

本日の日経新聞1面に「温暖化ガスの排出上位は鉄鋼・化学」という見出しの記事がありました。

日本の温暖化ガスの業界別排出量(CO換算)において、鉄鋼業が14.6%で圧倒的トップ、化学工業が6.9%で2位でした。

企業別ランキングでは、上位には鉄鋼、金属、セメント、製紙企業が多いですが、化学企業は、9位宇部興産、11位東ソー、12位三菱化学、13位出光興産、14位トクヤマ、20位旭化成ケミカルズ、23位電気化学工業、25位昭和電工、30位住友化学、31位三井化学などがリストに載っています。

算出の方法などはよくわかりませんが、ソーダ・塩ビ・電解のプラントを保有する会社が、相対的に上位に来ているようです。

化学工業が他の産業と比べて温暖化ガスを排出するのは、その性質上、仕方がないことです。大きなチャレンジには違いありませんが、日本の化学企業には、少しでも排出量を減らしていくテクノロジー、システムを開発して、「環境に優しい化学産業」としても世界をリードして頂きたいと期待しています。

2008年3月11日 (火)

化学企業の合併・分離

最近、ある機能性材料の市場を調べていたら、登場する企業(特にグローバル企業)の名前をほとんど知らないことに、改めて気づいた。

各社のホームページの歴史欄をよく読むと、ほとんどの場合、なじみのあるグローバル化学企業がオリジンであることが多いのだが、この15年くらいの企業合併、事業分離の流れの中で、多くの企業名が変わってしまったため、知らない社名が多いのである。

振り返れば、15年前の1993年頃の世界化学企業のトップ10にあった、ドイツのヘキスト、フランスのローヌプーラン、英国のICI、米国のモンサントなどは、大きく変容してしまった。

医薬業界の再編が引き金になった例が多いのではあるが、機能性材料やスペシャリティケミカルにおいても、事業毎に再編が起こったため、農薬・塗料・機能性樹脂・エンプラ・医薬中間体などの専業の会社が数多く生まれてきている

一方、日本の化学企業は、そこまで「事業ごとの専業化」は進んでいない。今後、グローバル競争がますます激しくなる状況において、日本の化学企業の専業化は、どこまで進むのであろうか。

2008年3月 3日 (月)

化学企業のR&D

日本の化学企業のR&Dの流れについての考察です。

第一世代(1990年代初頭まで):

「中央研究所」や「総合研究所」で中長期的かつ基礎的な研究開発を行うのが中心。

新しい触媒や、新しい機能性材料、バイオや超伝導といった新しいテクノロジーを追求するのが、研究者のミッションであり、生きがいであった。

しかし、リソース(研究費、人数)を投入した割には、新規ビジネスの創出にはあまりつながらなかったという反省が多い。

第二世代(2000年頃まで):

バブル崩壊の結果、各社が研究予算を絞り、「研究開発の効率化」を追求した。

各社とも、自社で行うテーマを絞り込み、ビジネスとして出口が見える研究開発に集中した。R&Dのアウトソーシングや外部機関との連携を進めた例も多かった。

第三世代(2001年以降):

会社の規模や事業ポートフォリオにより異なるが、持株会社やグループ会社経営が進んだ結果、「事業部門の分社化」や「事業部門への権限委譲」を進めた例が多い。

その結果、最近の議論としては、研究開発を短期的なテーマに絞りすぎてしまったという反省が聞かれる。

また、各事業部やカンパニーに権限委譲をしすぎた結果、グループ横断的な研究開発がやれていないという声も聞かれる。

化学企業は、ここ数年のアジアを中心とする好景気に牽引され、好調な決算の会社が多いが、このような時期こそ、長期的な視点でR&Dを考え直す必要があるのだろう。

2008年3月 2日 (日)

日本のヘルスケア・化学企業

日本のヘルスケア(医薬・医療機器・診断など)や化学の会社は、グローバル競争において、自動車やエレクトロニクスといった他の製造業と比べると、相対的に弱い立場にあります。

その理由としては、以下の3点が考えられます。

1.歴史的にスタートが遅かった

近代の医学・化学の技術のルーツの多くは、18-19世紀前半の欧州で生まれ、そこから米国に派生しました。欧州には19世紀に設立されて、今もグローバルに活躍している企業が数多くあります。日本は明治以降、欧米の先端医学・化学技術を導入して始まった企業が多いですが、未だに多くの技術領域で追いついたとは言えないようです。

2.長年の規制産業である

医薬・医療機器業界は、皆保険制度のもとで、比較的高い診療保険点数(薬価)がついて守られてきました。化学業界は、石油化学プラントが多額の投資を伴うこともあり、国家政策として旧通産省の指導下で、護送船団方式で守られてきました。そのため、グローバルでの競争力が弱くなってしまいました。

3.医療現場での臨床研究がしにくい

特にヘルスケア(医薬・医療機器など)では、先端医療を臨床現場で実際に使ってみることが、技術の進歩に不可欠ですが、日本では臨床治験が十分にできない(医師がチャレンジしにくい、仮にリスクを取ってもメリットが見えにくい)という制約条件があり、欧米に遅れをとっています。

ネガティブな面ばかりを挙げてしまいましたが、もちろん、日本発のすぐれた医薬・医療機器もたくさんありますし、化学でも、自動車やエレクトロニクス向けの機能材料においては日本は健闘しています。

グローバル競争で苦戦している日本のヘルスケア・化学企業を応援していきたいというのが、私の願いで、少しでもこのブログが参考になればと思っています。

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