祝無罪:福島県立大野病院事件
医療関係者の大きな関心事だった福島県立大野病院の産婦人科での妊婦死亡事件について、無罪判決が出されました。
タダでさえ高度な医療について及び腰な日本の医療を、さらに委縮させる結果にならず、本当によかったと思います。亡くなられた妊婦さんとご遺族はたいへんお気の毒ですが、これを契機に「医療は常に不確実性があるもので、刑事事件で裁くべきではない」という国民のコンセンサスができていくと良いと思います。
医療関係者の大きな関心事だった福島県立大野病院の産婦人科での妊婦死亡事件について、無罪判決が出されました。
タダでさえ高度な医療について及び腰な日本の医療を、さらに委縮させる結果にならず、本当によかったと思います。亡くなられた妊婦さんとご遺族はたいへんお気の毒ですが、これを契機に「医療は常に不確実性があるもので、刑事事件で裁くべきではない」という国民のコンセンサスができていくと良いと思います。
久しぶりになってしまいました。
最近、血糖自己測定器とセットで使用される穿刺具(ランセット)の病院・クリニック内での複数患者による使用(使い回し)による院内感染リスクが問題になっています。
【厚労省】ディスポ血糖測定器具の「使い回し」を実態調査へ
島根県の医療機関で、1回1人の使用に限っているディスポーザブルタイプの血糖測定器具を、複数の人に使い回したケースが相次いで発覚したことを受け、厚生労働省は27日、ディスポタイプの同器具の使用実態調査を全国の医療機関を対象に行うと発表した。6月末までに調査結果をまとめ、必要なら対策をとる。 ディスポ血糖器具の使い回しは、島根県益田市の診療所で3月末から約1カ月間に44人の患者に対し、針を交換せずに使用したことが4月30日に発覚。感染の恐れがあるため検査した結果、因果関係は不明だが、HCV抗体陽性2人、HBs抗原陽性1人、HBs抗体陽性13人に上ることが判明。その後、島根県の調べで、針は交換していたものの、ディスポタイプの使い回しが24日現在で46医療機関で行われていたことが分かった。奈良県からも1施設で同様のケースがあったことが報告されているという。
これらの器具の添付文書には、「複数の患者に使用しないこと」と明記されている。厚労省医薬食品局は、海外での使い回しによる感染事故を受け、2006年3月には、「複数患者使用不可」のシールを器具に貼るよう指導し、島根県益田市のケースでも貼られていた。今回の発覚以前には、厚労省に使い回しが報告されたことはなかったという。
今回の調査の対象になっているのは、ほぼ全ての血糖自己測定器メーカーです。全メーカーが薬事法と異なる説明をしていたり、使用方法についての説明不足であることは有り得ないと思います。
つまり、厚生労働省としても、メーカーとしても、打つべき手はうっていたが、医療現場の医師・看護師の認識が甘かったということなのでしょう。本件で肝炎などの感染症に罹患した患者さんが少ないことを祈ります。
次は、新聞記者の書いた医療問題の本を紹介します。
『ドキュメント 医療危機』(朝日新聞社) 田辺功
この本は、朝日新聞朝刊に2007年4月から連載された「ドキュメント 医療危機」がベースになっています。著者の田辺氏は、朝日新聞社編集委員で、長年、医療問題を担当されている記者とのことで、多くの課題が多面的に抽出されています。
一つの項目ごとに一つのブログが書けるくらい、多くのテーマがありますので、ここでは課題を列挙して、簡単なコメントを書くだけに留めます。
・日本は医師の絶対数が不足: OECD加盟国で日本の医師数は最低レベル。医師の労働時間は最高に長い。医師および医療従事者の労働条件の悪さが医療事故の遠因。医師の高齢化も進んでおり、医学部定員の増員は不可欠。
・医療事故に警察が介入する危険: 医療行為の結果である死亡に対し、警察が介入して医師を逮捕する事例があった(06年の福島県立大野病院の産婦人科の例)。これが一般的になると、訴訟・逮捕されるリスクの高い産婦人科や外科は誰もやりたがらない。また、リスクのある手術はできなくなる。新しい医薬や医療機器は使用できなくなる。
・病理解剖の少なさ: 他の先進国と比べ、日本では病理解剖は極端に少ない。96年のWHO調査では、スウェーデンが全死者の37%、カナダ20%、米国12%、ドイツ8%に対し、日本は22か国中最下位の4%。解剖により死因の究明や治療プロセスの質向上を図れる。ベストセラーになった『チーム・バチスタの栄光』でも取り上げられたテーマですが、病理医の数の少なさは、医療の質を支える上で問題。
・医療不信をあおるマスコミの報道: テレビ、雑誌、新聞の医療事故に関する報道が、すぐに医師の医療ミスと断定するかのようなトーンになり、医療不信をあおる。マスメディアの勉強不足と一過性の大衆迎合主義が問題。
・わがままな患者: インターネットなどを通じて医療に関する情報が入手しやすくなったのは良いことであるが、最近は、すぐに医療ミスを疑う患者・家族が増え、医師は余計な労力を割かれている。わがままな患者や、ひどい場合には暴力をふるう患者、医師や看護師に暴言を吐く患者も増えている。
・腎移植などの先進的な医療へのリスク: 日本では臓器移植についてのガイドラインが明確に作られていない。学会は大学教授が中心なので、臨床経験が少なく、医療の現場での患者の切実なニーズが理解されていない。従って、先進的な医療行為については医師個人がリスクを負わざるを得ないため、日本では多くの先進的な医療で遅れている。
・医療機器の認可の遅さ・価格の高さ: 日本は医療機器の認可が遅く、欧米と比べ、2-3世代前の古いタイプが使われていることが多い。審査機関の人数、スキルとも不足している。いろいろな意味でコストが高くなる市場構造であるため、価格が高くなる。
最後に、田辺氏はこの本の中で、日本の医療を改革するための「8項目の提言」を挙げている。
特に私は、2(許認可制度の改善)、3(混合診療導入)、7(医師のグレード分け)、8(予防医療の重視)については、大いに賛成です。
いずれも重要テーマなので、このブログでも取り上げたいと思います。
また医療崩壊に関する本の感想です。
『貧乏人は医者にかかるな! 医師不足が招く医療崩壊』(集英社新書) 永田宏
著者の永田氏は、オリンパス光学、タケダライフサイエンス・リサーチセンターなどの民間企業で医療情報研究に従事された方で、現在は鈴鹿医療科学大学教授です。この本は、医療問題を「医師の絶対数の不足」という視点から考察されています。
「医師不足」の問題については、私自身、この本を読むまでは認識不足でした。次のような点は、私にとって新鮮でした。
以下は、私の感想・コメントです。
1について: 2000年頃から、マスコミで医療事故の報道が多くなり、安全管理に関する患者への説明や院内での事務作業が増加したこと、病院がコスト意識を持ち始めたこと、インターネットの普及で患者の声が大きくなってきたことなどが一因なのでしょう。若手医師や女性医師が働きやすい環境の整備も遅れているようです。いずれにしても、この10年足らずの間に、医療現場で急激な変化が起こっているため、私を含め、非医療従事者は、医師数不足に対する認識が足りないようです。
2について: 私が1980年代に大学に入学した頃は、確かに「医者は余る時代がくる」と言われていました。私が医学部に進まなかった理由の1つでもあります。1986年の厚生労働省調査から、わずか15年程度で、全く逆の状況になっているというのは、ひどい話です。医師の中でも、勤務医と開業医の間で、意見統一ができないことが、さまざまな面で医療問題の解決を難しくしていますね。
3について: 各国の制度に違いはありますが、日本の医師数が先進国の中で最低というのは、確かなのでしょう。この数字には高齢の医師や研究医もカウントされているので、実態は2.0名よりもっと少ないということが論理的に述べられており、説得力があります。
一方、英国は1980年代に医療費を削減しすぎて医師不足になり、患者が手術を受けるのに半年待ちといった状況になったため、医師数を増やしているそうです。私は1990年代前半に英国に住んでいたことがありますが、確かにその頃の英国人は、「イギリスの医療制度はひどいんだ」「風邪をひいたくらいでは、病院には行かない(行けない)」となげいていました。
4について: この本によると、日本の病院の医師・看護士などの数は、戦後すぐの1948(昭和23)年の国立病院を基準に決められたそうです。まだ結核が不治の病気だった頃です。当時はまだ医薬も医療機器もあまり高度なものがなかったので、やれる治療も限られていたはずです。その頃に決めた基準をいまだに踏襲しているのでは、高度な医療を行うためのマンパワーが不足するのは当然だと思います。
5について: 昨年、東北地方で開催されたある学会の会場で、「東京大学附属病院」や「慈恵医大病院」が大々的に看護師の募集をしていました。それを見た東北地方の医師が、「東大や慈恵から高給で誘われたら、若い女性(看護師)は誰でもあこがれて東京へ行ってしまう」となげいておられました。
また、私がヘルスケア企業に勤務していたとき、中部地方の名門国立病院の30歳代の内科医から、「東京のメーカーで働くにはどうしたらよいでしょうか」と相談を受けたこともあります。地方病院の医療現場の状況は、非常に良くないようです。
結論として、今の医療制度の延長では、「医師数の不足により、患者が適切な医療を受けられなくなる」という事態になることは避けられないようです。そうならないためにどうすべきか、国(政治家、厚生労働省)、医学界、経済界で真剣に議論していただきたいものです。
4月8日の日経新聞夕刊に、下記の記事が掲載されました。
『混合診療、賛成8割。タブー視せず議論を』
特定非営利活動法人「日本医療政策機構」の調査によると、がんなどの命にかかわる病気では、一般成人の8割が「混合診療を認めるべきだ」との意見であることがわかった。
http://www.healthpolicy-institute.org/ja/report/index.php?atm_id=3
2003年に日本医師会総研が実施した同様の調査では、「一般国民や患者の2割未満しか混合診療に賛成しない」という結果であった。一方で、経済団体が行った別の調査では、賛成が反対を上回り、結果にバラツキがあった。
同機構によると「日本医師会の調査の質問文には、医師会の主張である混合診療反対という回答に誘導するケースが多く、信用性に問題があった」と指摘している。
2003年の日本医師会の調査に対しては、産業界や大学病院の医師などから疑問の声が上がっていました。今回の結果は、公平な調査結果として、尊重されるべきでしょう。
日経新聞の記事にあるように「日本医師会、学会、厚労省は、混合診療をタブー視せずに議論すべき」 だと思います。
日本医師会会長の唐澤氏の最新刊(3月30日発行)です。
『医療崩壊 医師の主張』(毎日新聞社) 唐澤祥人
日本医師会の主張としてこれまでにいろいろなところで発表された意見を、唐澤会長が個人的に総括されたものです。タイトルは、「医師の主張」というより、「開業医がマジョリティを占める、日本医師会の主張」という方が適切だと思いました。
いずれにしても、日本国の医療のあるべき将来像を考える上で、「日本医師会が何を主張しているか」を理解することは避けて通れないところなので、一読の価値はあります。(当然、立場や考え方によって、賛否の議論が百出するところではありますが。)
以下に私の感想を述べますが、私の立場は、ヘルスケア企業と経営コンサルタントの経験から、「医薬・医療機器・診断薬のサプライヤーの視点、および、一人の日本国民としての視点」となります。
最初に、日本医師会の主張について、私が「その通りだ」「ある程度同意する」と感じた点を挙げます。
一方、私が「この点は同意しない」「これでは多くの国民の理解は得られないのではないか」と感じた点は、以下の通りです。
→ なぜなら、日本経済の成長が鈍化し、社会が成熟してくると、あらゆる業界で競争が激化するため。グローバル競争がほとんど無く、IT化の影響もまだ少ない医療業界は、その点ではマシな方です。医療においては、まだまだ業務プロセスの効率化、低コスト化、患者サービスの向上などに努力する余地があると思います。
→ 米国でもドイツでも、競争を勝ち抜いた優秀な医師は高い給与を得られますが、平均的な勤務医・開業医は日本より低いはずです。例えば、私がよく知っている外資系ヘルスケア企業のドイツでは、多くのメディカルドクターが勤務しています。彼らが病院ではなくメーカー企業に勤務する理由の1つは、病院の給与はヘルスケアメーカーより安いからです。
ある37歳位のドイツ人内科医と話したところ、「彼が勤めていた公立病院だと年収800万円で夜勤や休日出勤もあるが、メーカーの医療学術担当では年収900万円で平日勤務のみなので、メーカーの方がよい」との話でした。
→ この本に書かれていない点として、私が織り込んでほしいと思っているのは、例えば「医師免許の更新制度の導入」「最新技術への定期的なアクセスの義務化」「セカンドオピニオンの推進」「チーム医療制の導入」「人材のグローバルな流動化」「先進的な医療や安全管理についてのマスメディアへの説明の強化」などがあります。これらについては、このブログの中で、適宜、触れていきたいと思います。
いずれにしても、最初に触れたように、「多くの医師・医療従事者は一生懸命、頑張っている」「総医療費を増額しないと、努力しようにもできない」ことは理解した上での、私のコメントです。誤解なきよう、お願いします。
雑誌「NEWSWEEK 日本版」の3月5日号に、『医療観光』と題した特集記事がありました。
http://nwj-web.jp/cover/contents/20080305.html
最近、途上国の医療技術が進歩してきたため、医療に国境がなくなりつつある。先進国から、安い費用で手術や治療を受けられる途上国を訪問する「医療ツーリズム」の市場が拡大している。
・昨年、治療のために外国を訪問した医療ツーリストは、イギリスで7万5000人、アメリカでは50万人以上。
・アジアの医療ツアーの市場規模は、10億ドル(1000億円以上)。年率30%で成長。各国が新しい産業として、医療ツアーに力を入れ始めている。
・人間ドック、美容整形、歯科などが多いが、不妊治療、心臓バイパス手術、人工股関節置換手術、更には、子宮全摘手術、臓器移植までがある。
・例えば、タイのバムルングラード国際病院は、心臓疾患から、アレルギー、睡眠障害まで、多様な病気の治療を手がける巨大施設で、年間45万人の外国人患者がくる。医師900人、看護士800人の他、数百人の通訳が待機する。
・最大の魅力は、やはり費用の安さ。例えば、米国で3万ドルの心臓手術が、インドでは4000ドルで受けられる。外国人がインドで手術を受けると、平均的には米国の数分の1。フライトや滞在費を考慮しても、割安感は大きい。
NWでは日本については特に触れていませんが、日本でも最近は、芸能人が先進的な不妊治療のために米国に行ったり、ガン検診+観光ツアーで韓国に行ったりということを耳にするようになっています。
あらゆる業界で「グローバル化」「ボーダーレス化」は避けられない方向ではありますが、医療については、以下の課題がありそうです。
1.安全・リスク管理の課題
医療である以上、医療ミス、合併症のリスクは常に存在する。術後のケアも気軽にはできない。問題が起きた時、補償を得ることも難しい。
2.医療従事者のグローバル化の課題
途上国の多くが医師不足であるのに、給料などの条件がよいため先進国で働く医師が多いことはこれまでも国際的な問題であった。それに加えて、途上国に残った医師までが、自国民ではなく先進国の患者を優先することは、既にいくつかの国では問題となっている。
3.医療倫理の課題
医療が金儲けの手段になりすぎると、様々な倫理的な問題が発生する。不妊治療では、体外受精用の卵子提供や代理出産をどこまで認めるかは大きな議論である。また、臓器移植などでは、貧困層が犠牲になりやすい臓器売買の温床になる可能性がある。
1-3の課題に対して、将来的には、国際的なガイドラインを作成することが望ましいのでしょうが、当面は患者の自己責任・自己判断にならざるを得ないのでしょう。
昨3月30日、日経新聞朝刊の『医師の目』と題した連載コラムに、次の内容がありました。
『血糖自己測定をもっと普及させよう』
筆者は、糖尿病学会で知らない方はいない東京都済生会中央病院副院長の渥美義仁先生です。以下、記事からの抜粋です(太字、下線はdragonfly)。
日本では、これまでインスリン使用者にのみ健康保険が適応されてきました。ただ、国際糖尿病連合の治療ガイドラインでは、インスリン治療以外の人にも積極的に活用するのが標準で、国内の遅れは明らかでした。この4月の診療報酬改定でやっと200床未満の医療機関で非インスリン治療患者にも認められましたが、費用のわりに血糖センサーの数が限られるので、使う際には工夫が必要です。
(200床以上の)大きな病院にかかる人がなぜ発展途上国並みの環境に留め置かれたかはわかりません。しかし、必要性をよく理解した人が、主治医のアドバイスのもと、自分の意思と費用でしっかり血糖値を測ると効果的でしょう。
血糖自己測定については、既に欧米先進国をはじめ、アジアの多くの国でも、OTCとして認められており、必要な人は誰でも薬局で買うことができます。
一方、日本では医師の指導のもと、インスリン使用患者だけに限定されており、糖尿病および生活習慣病関係者の間では、ずっと以前から日本の規制緩和の遅れが問題になっていました。
今回の診療報酬改定で、若干の規制緩和が行われましたが、渥美先生のご指摘のように、まだまだ十分ではないようです。欧米のように、血糖コントロールを必要と感じた人が「自分の意思と費用で」血糖自己測定器を購入して使用することができるようにしていくべきでしょう。
国家の医療費削減を長期的に考える場合には、血糖自己測定のような予防医療にこそ、もっと医療費を使うべきだと思います。もし健康保険の適用がコスト的に難しいのであれば、国民のひとりひとりが自分の意思と費用で、健康管理・予防を行えるような仕組みにしていくべきだと考えます。
最近、製薬メーカーのテレビコマーシャルをよく見かけるようになりました。タイプとしては、大きく3つに分かれると思います。
1つめは、会社自体の認知度向上、イメージアップを狙ったCMです。
最近の例では、合併して新会社になった第一三共が、俳優の渡哲也を起用したCMが目立っています。いかにもギャラが高そうな渡哲也が登場して、「どこの薬かな?第一三共か」という演技をするだけですが、さすがは大物俳優だけに、存在感があって目を引きますね。新会社の認知度アップだけではなく、合併後の同社社員に愛社精神をもたせ、モチベーションを向上させる施策(経営用語ではPost Merger Integration施策)としても有効なのではないでしょうか。
その他には、テルモやニプロといった医療機器に軸足があったメーカーが、医薬での認知度向上を企図したCMも目立っていると思います。
2つめは、新しい領域の医薬品の患者(消費者)への認知度向上(啓蒙)を意図したDirect To Consumer (DTC)のCMです。
DTCは、一般消費者(潜在患者)が「病気なのかどうかわからない」領域において、「そのような悩みがある人は病院で医師に相談してください」と知らせるPull 戦略が目的です。これまで、ED、うつ病、養毛などの例がありました。
最近では、アステラス製薬とサノフィ・アベンティスが共同で、睡眠導入剤のCMを大々的に展開しているのが目立っています。こちらは俳優ではなく、元NHKキャスターの草野満代さんと、順天堂大学病院の河盛隆造教授による「生活習慣病に起因する睡眠障害について」の対談形式の堅い感じのCMです。河盛教授は、糖尿病や内分泌の世界では知らない医師はいない有名な方ですので、このCMは一般消費者向けだけではなく、クリニックなども含む医師向けにインパクトが強いCMだと思います。
3つめは、ジェネリック医薬品のCMです。
この領域は、厚労省が医療費削減のためにジェネリック比率を欧米並みに高めたいという意図と、患者や病院経営者のコスト意識向上とともに、少しずつメジャーになりつつあります。
以上のように、これまで医科向け医薬品企業は、マスメディアによる広報活動(特にテレビコマーシャル)にはあまりエネルギーを注ぐ必要はありませんでしたが、今後はますますその重要性が増していくでしょう。特に各社が、いかに企業の独自性を出すか、いかにCMの費用対効果を向上させるか、優秀な広報スタッフをどのように育成するかといった点で、知恵を絞っていくことになりそうです。
最近出版された本です。
『見習いドクター、患者に学ぶ』(集英社新書) 林 大地
日本の大学を中退し、英国ロンドンの医学校で医師を目指した筆者の留学体験記です。
英国人を初め、さまざまな国籍の人たちと切磋琢磨して医師になるための努力をしていく姿が、活き活きと描かれており、読み物として面白かったです。特に、次のエピソードが印象に残りました。
・筆者のDaichiという名前は、英国人には覚えられないし、DaiはDie(死)につながり縁起が悪いので、大学の先生からAlexという英国名をもらったこと。
・日本とは異なり、医学部1年の最初から、GPでの実習があり、患者とのコミュニケーションスキルや診断スキルを学ぶこと。
・初めての採血実習で、静脈血がとりにくい老婦人を担当し、何回かの失敗のあと、患者のあたたかい協力で、無事に血を採れたこと。
・卒業試験では、Objective Structured Clinical Examination (OSCE、客観的臨床能力試験)があり、厳しく臨床現場でのとっさの診断力、判断力が試されること。
全体を通して、英国では「患者中心の医療(Pacient-centered Medicine)」を重視して医学教育が行われていることに、感銘を受けました。
また、この筆者は、素直で読みやすく、エピソードを上手に伝える文章力があるので、次回作にも期待したいです。
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